スーツに関する豆知識〈Knowledge About Suits〉

1. スーツを着る上で知っておきたい豆知識

スーツやネクタイについてそのルーツや意味など、知っておきたい豆知識を紹介します。

  • スーツは道具? それとも・・・

    現在日本では、ビジネスシーンや、少しかしこまった場所に行く際に、道具としてスーツを着られることが多いと感じます。
    つまり、スーツはただ着ていればそれでいいという方がほとんどではないでしょうか?

    スーツは西洋の文化であり、日本における歴史はそう永くありません。日本ではスーツスタイルの起源や本来の目的などを知る機会はほとんどありません。

    しかも道具としてのスーツが流行し、注文服から既製服へと変わり、構造は簡素化され、素材は天然から化学繊維に変わり、その結果、元来の作法までも変えてしまったのかもしれません。

    確かにスーツには道具としての機能も必要ですが、いくら日本人だからといって、西洋人から笑われるようなスーツは着たくありません。
    彼ら西洋人にとってのスーツスタイルは「衣装」です。「道具」ではなく、公的な場において、その人の「人生に対する姿勢」や「社会的ポジション」を表現する衣装なのです。

  • スーツはどうあるべきか?

    スーツはどうあるべき?

    スーツの起源は英国の乗馬服から来ているといわれます。

    それは動きの激しい乗馬においても、服が、肩をしっかり挟みつけ、全体の荷重を肩で感じるような体に沿った仕立て服だったということです。

    この体に沿うということは、必然的に動きやすく着心地が良いという状態を作り出し、そのため座ったときや自然に立ったときの姿勢や雰囲気が誰から見ても非常に上品になります。

    ダブルかシングルか、イタリアか英国か、ノッチかピークか、サイドベンツかセンターベントか、生地の色柄やグレード、といったことよりもまず【自分の体に沿っている】ということを重視すべきでしょう。

    また腰ポケットや内ポケットに財布や携帯電話、手帳などをたくさん入れてしまいますとせっかくの全体シルエットが崩れてしまいます。しかしこれもスーツをビジネスの道具として着る場合は仕方のないことです。

    ただ、自分をより上品に表現するのであればできるだけ薄いものや小さなものに交換する、できるだけ持ち物を減らすといった努力もしてみてはいかがでしょうか。

  • たかがシャツ、されど・・・大事!

    シャツは大事!

    たかがシャツと思われる方もいると思いますが、されどシャツです。 シャツという引き立て役がいればこそ上着(ジャケット)もより引き立ちます。

    スーツが体に沿っていてもシャツの首周りが大きすぎたり、色やカラー(襟)の形状によってはせっかくのスーツの価値が5分の1くらいに見えてしまうのは事実です。

    シャツは元来スーツスタイルにおける下着でした。(今クールビズの流行でシャツを着て公式の場に出ることは日本では当たり前ですが、昔の英国紳士にとっては大げさにいうとパンツ一枚で外に出るという感じかもしれませんね)。

    そしてもちろんシャツも元来は注文仕立て服でした。
    また機能を追及して生まれた半袖シャツもスーツスタイルには合いません。

    ジャケットの袖口からシャツが出ているのと出ていないのではあきらかに出ているほうが全体のバランスが引き締まり、上品に見えます。
    袖口からシャツが出ていなければ、スーツはオーバーサイズに見え、全体のメリハリ感さえなくしてしまいます。

    スーツを着られる際にはぜひシャツもご一考ください。

  • ネクタイの意味ってなに?

    ネクタイの意味

    ネクタイは私たちがスーツを着る上で首からぶら下がっているだけのもっとも正体がよくわからないものですが、シャツと同様スーツスタイルでは切っても切れない関係となっています。

    海外ではネクタイの柄一つで社会的な立場が確立されることもあるそうです。
    このことからもネクタイは社会の中で非常に重要な役割と意味を持っているということになります。

    ネクタイなしではカジュアルな雰囲気になります。
    スーツスタイルのぽっかり空いたVゾーンに「ネクタイ」を飾るだけで見た目が大きく変化し公式な雰囲気を作り上げる上で大きな役割を果たします。

    色や柄が多様で、ジャケットやシャツ、さらには靴との相性もあるのでネクタイに悩む男性は少なくないでしょう。

    スーツとシャツはあまり流行を意識せず、ベーシックかつ上品なものを選び、ネクタイは自由におしゃれや個性を主張できる唯一の場所なのでTPOに合わせて色を変え、雰囲気を変えてみましょう。

  • 知っていることは良いことです。

    着こなしはその人の自由です。自分だけの服をどのように着ようが本当にその人の勝手です。

    しかし知っていることは良いことではないでしょうか?
    知っていてあえてスタイルを崩すのと、無意識に品を下げるのでは全く意味が違います。

    ここに書いたことだけではすべてはお伝えできませんが、スーツだけで大きく人の印象が変わるのではなく、スーツを変えてみて、そこから自分の姿や着こなし方を自分で意識することが大切です。
    そしてスーツだけでなく、シャツ、ネクタイ、靴、かばんなどにも興味を持つことが、その人を本当に大きく変えていきます。

2. スーツの各部や仕様の豆知識

スーツのディティールや服に関する仕様についてのあれこれを紹介します。

  • ダブル と シングル (ジャケット)

    ダブルとシングルの違いはボタンの掛け方で、ジャケットの前合わせの型でフロントボタンが1列のものを【シングルブレステッド(シングル)】といい、ジャケットの前合わせの型でフロントボタンが2列のものを【ダブルブレステッド(ダブル)】といいます。

    シングル

    シングルブレステッド

    ダブル

    ダブルブレステッド

  • 春夏仕様 と 秋冬仕様

    夏服と冬物の違いはひとことでいえば【背抜き】があるかないかによります。冬服の裏地は【総裏地】ですが夏服には背抜きがあります。

    背抜きとはジャケット地の裏身ごろの肩より下の背中にあたる部分に裏地を使用しない仕立てのことで、これにより熱が溜まらず通気性が増します。

    後は使われる生地の違いです。夏物だと通気性のよい軽めの生地を使用します。冬だと逆になります。その他にも、手触り、質感等、季節に応じて仕様が異なります。

    ただ春夏秋冬4シーズン分のスーツを購入するのも大変ですので最近ではオールシーズンやスリーシーズン対応のスーツがでてきています。

    背抜き

    背抜き(春夏もの)

    総裏地

    総裏地(秋冬もの)

  • ショルダーライン

    全体のシルエットに大きく影響を及ぼす首から肩にかけてのラインのこと。
    全体的に角張っていて、肩の先が持ち上がっているように見える【スクエアショルダー】と、肩パットをより少なくするか、パット自体をなくしてしまい、本来の肩の線に沿って自然なラインを出す【ナチュラルショルダー】があります。
    他にも、通常の肩線より袖付き部分が落ちている【ドロップショルダー】などもあります。

  • パンツの裾(すそ) と 折り返し

    ズボンの裾の折り返しのことで、折り返さないものを【シングルカフス】、折り返すものを【ダブルカフス】といいます。

    昔は折り返しがなかったのですが、現在の生地素材が当時に比べ繊細なため、折り返しがある【ダブルカフス】の方が重味が加わり、靴とのバランスがスムーズになり、また上品に見えます。

    ある紳士が雨に濡れるのをおそれて裾を折り返したことに始まるといわれています。

    シングルカフス

    シングルカフス

    ダブルカフス

    ダブルカフス

  • ボタンの数 と ボタンのかけ方

    シングルだと2~3個、ダブルだと4~6個が現在の主流となっています。

    過去にはフロントボタンだけで30個以上ものボタンが取り付けられていた時代もありました。

    フロントボタンは実用と装飾の二つの側面を持ち、3つボタンのスーツは中1つ掛け、2つボタンのスーツは上のボタンだけを留めることにより、スーツはもっとも美しいプロポーションを形成します。

  • ラペル — 下襟(えり)

    襟の下部分(下襟)。スーツの印象を決める重要な場所でもあり、テーラーによってはオリジナル仕様や様々な工夫が施されています。
    【ノッチドラペル】とは菱形のラペルで現在では最も一般的な仕様であり、【ピークドラペル】とは下衿の突(先)端が上を向いたものです。
    そのほかにもまた下襟が水平にカットされた【セミピークドラペル】などもあります。
    またシングルの3つボタンスーツにおいてラペルが第一ボタンの下あたりまで居り返った仕立てを【段返り】といってスーツ好きに好まれる仕様です。

    ノッチドラペル

    ノッチドラペル

    ピークドラペル

    ピークドラペル

    シングル3ボタン段返り仕立て

    シングル3ボタン段返り仕立て

  • ベント

    スーツの裏(背中)の裾のディティールを指します。

    スーツ内側に空気を循環させるための工夫があり、切れ目が中央にあるものを【センターベント】、両サイドにあるのを【サイドベンツ】、切れ目が入っていないものを【ノーベント】といいます。

    センターベント

    センターベント

    サイドベンツ

    サイドベンツ

    ノーベント

    ノーベント

  • フロントカット

    上着の前裾のカット型のことを言います。

    基本的に【ラウンド・カット】(丸形)と【スクエア・カット】(角形)の2種類があり、前者はシングル・ブレスト型の上着に、後者はダブル・ブレスト型の上着に用いられるのが一般的です。

    フロントカーブの形で全体のシルエットや雰囲気にも影響します。

    ラウンド・カット

    ラウンド・カット

    スクエア・カット

    スクエア・カット

  • 腰ポケット (脇ポケット)

    脇の縫い目を利用して付けられたポケット。

    別名サイドポケット(脇ポケット)ともいい、【フラップ】(ふた)は雨風をしのぐために考案されました。
    仕様はおおまかに【切りポケット】と【貼り付けポケット】があり、最近はフラップ付きが一般的ですが、フラップなしの方が元来のスーツスタイルといわれています。

    種類は、ポケットの口を別布で縁取った【パイピングポケット】(玉縁ポケット)、
    切りポケットにフタのついた【フラップポケット】、
    腰ポケットの上についたひとまわり小さな【チェンジポケット】などがあります。

    フラップポケット

    フラップポケット

    パイピングポケット

    玉縁(パイピング)ポケット

    パッチポケット

    貼り付け(パッチ)ポケット

    チェンジポケット

    チェンジポケット

  • 胸ポケット(ブレストポケット)

    胸ポケットを総称して【ブレストポケット】といいます。仕様は基本的に腰ポケットと同じで切りポケットと貼り付けポケットがあります。

    へり(縁)の形が箱型のオーソドックスなポケットを【箱ポケット】といい、また箱型のへり飾りのことをウエルトというので、別名【ウエルト・ポケット】ともいいます。
    他にはポケットの底が傾斜して、カーブを描いた舟形の【バルカポケット】などがあります。
    胸ポケットは形や大きさ、ポケットチーフによって印象がガラリと変わり、物入れというよりも飾りとしての要素が強いポケットです。

    胸ポケット

    胸のパッチポケット

  • ヒップポケット(ピスポケット)

    いわゆるお尻に位置するポケットの総称です。蓋付きの【フラップポケット】、玉縁仕上げの【ビーサムポケット】があります。
    本来、ヒップポケットは左右同デザインが伝統的な手法で、左右非対称は日本的なデザインです。

    ヒップポケット

    ヒップポケット

  • タック(パンツ)

    パンツをはいた際に立体感を出し、動きやすくするために設けられたヒダのことです。
    【ノータック】、【1(ワン)タック】、【2(ツー)タック】などが一般的です。
    ヒダが外側に向く一般的な【アウトタック】や内側に向く【インタック】などもあり、好みに応じて変更できます。

    タック

    タック

  • ボタンホール

    ボタン穴のこと。スーツでのボタンはフロント(ジャケットの前見ごろ)ボタンと袖口ボタンに分類されます。

  • フロントダーツ

    前身頃の胸の辺りから腰ポケットにかけて、縦に入っているつまみ縫いのこと。

    この部分はスーツを立体的にし、シルエットを綺麗に見せるほか、身体にフィットさせる上で最も重要な部分ともいえます。

    フロントダーツ

    フロントダーツ

  • フラワーホール

    ジャケットのラペルに開けられた小穴。
    花をさして飾るための穴なのでこのように呼ばれています。【ラペルホール】ともいいます。

    フラワーホール

    フラワーホール

3. スーツやお洋服のメンテナンスについて

スーツのメンテナンス方法について基本的なことをお伝えします。

  • 一日着たら一日休ませる

    スーツを休ませる?

    一日着たスーツは一日ハンガーにかけて休ませるとより永くご愛着いただけます。
    毎日スーツを着られる方は二着を着回されるのが良いでしょう。

    また、形が崩れないようできるだけ肩のしっかりしたハンガーにかけ、毎回着用後にブラッシングしていただくことをお勧めします。

  • しわができてしまったら

    しわができたら

    天然素材100%の素材は長時間の車の運転などできつくしわができてしまうことがあります。

    そんな場合は、入浴後の浴室に30分ほどつるし、ある程度湿気を含ませ、その後別のお部屋にて一晩ハンガーで休ませていただくと自然にしわが取れます。

    頻繁にアイロンがけをすると生地にテカリが生じますのでご注意ください。

  • クリーニングに出される際の注意点

    プレス(アイロンがけ)時に上着のラペル(襟)の折り返しを折り曲げてアイロンがけしないようにクリーニング店にご依頼ください。

    クリーニングでの注意

    ×:プレス失敗例

    クリーニングでの注意2

    ○:上手なプレス

  • しみになる前に

    汚れがついた場合はできるだけその場で水を含ませた布を少し硬めにしぼり、こすらず軽くたたくようにして取り除いてください。
    完全に取れない場合はお早めにクリーニング店で染み抜きをご依頼ください。


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